【SB C&S】なぜRPA導入に失敗するのか?SB C&Sから学ぶRPA導入論

SB C&S株式会社 コーポレート管理本部 本部長 市川隆博氏

——「RPAというものは業務改善のための手段に過ぎない。」

東京都港区汐留に本社を構えるSB C&S株式会社では、「デジタルワーカー500」と称して社内の業務効率化を進めている。

2013年ごろから金融機関を中心に導入が始まったRPAは、年々市場規模を拡大し、2018年度には2017度比134.8%増の418億円、2022年度には2017年度比で約4.5倍となる802億7千万円にまで成長すると予測されている。

当初は金融や保険など特定の業界でしか利用されていなかったRPAも、現在では製造業、医療業界、地方自治体など幅広い業界で利用されている。

このような光の部分が当てられることが多いRPAだが、実際には導入に失敗したり開発者の育成がうまくいかないと言った声も少なくはない。

開発者の育成、RPA導入の成功の秘訣は一体何なのか。

そこでRPATIMES編集部は、今回SB C&Sで人事・総務・広報部門を束ねるコーポレート管理本部本部長の市川隆博氏にインタビューを決行。

RPA導入に必要なことから、社内で円滑にRPA化を進めるために工夫していることまでを語ってもらった。

「まずやってみる」の姿勢

SB C&S 市川氏

——編集部:「デジタルワーカー500」という取り組みはどういった経緯で始められたのでしょうか。

きっかけは、親会社に当たるソフトバンク株式会社が「Half & Twice」というスローガンを打ち出したことです。

現在の事業は半分の人員やコストで運営し、生産性をこれまでの2倍にする。

その上で、新規事業領域に人材を再配置することを目指すというものです。

その後、ソフトバンク株式会社が「デジタルワーカー4000プロジェクト」を掲げ、RPAなどの新しいテクノロジーを使って生産性を高め、社内で約4000人分の業務時間を創出することを目標としました。

ソフトバンク株式会社は約2万人の社員がいるのに対して、弊社は1/10の約2000人規模の会社なので、まず500体のロボットを作ろうと考え「デジタルワーカー500」というスローガンを掲げたというわけです。

——編集部:その後、RPAを実際に導入していく際にどのような業務に対して適用させていったのでしょうか。

特定の業務に特化するようなことはなく、手当たり次第RPAを適用させてみたという感じですね。

このようになったのは、社内の文化にも由来していると考えています。

ソフトバンクグループ自体はわずか40年の間で大きく成長しました。

たった一つの小さな会社が40年でこのくらいの規模の会社にまで成長することはなかなか例がないことだと思うんです。

その原動力となったものは、「まずやってみる」という考えだと思っています。

SB C&Sはソフトバンクグループの創業事業であるため特に創業時の精神や文化が残っていて、色々なことをあれこれ考えるより、とりあえずやってみようということが全体のカルチャーとしてあります。

言ってみれば、ベンチャー企業に近い精神ではないでしょうか。

——編集部:それはすごいですね!ここまでの規模の会社になるとそういった精神はどうしてもなくなっていくことが多いですが、そのような精神を残していくために会社として心がけていることはあるのでしょうか。

一番大きなこととしては、採用段階でグループの代表である孫正義と一緒に仕事をしたいという人が入ってきていることだと考えています。

現段階でグループには様々な会社があって、社風も様々ではあるのですが、吸収力の一つには孫のビジョンもあると認識しています。

そういった人間がグループのトップにいることが、各社にもベンチャー精神が残り続けている理由の一つなのではないかと考えています。

組織ベースで現場が取り組みやすい環境を作る

SB C&S 市川氏

——編集部:RPAを社内で拡大していく過程で、難しかったポイントなどがあれば教えてください。

一番難しかったことは、なんのためにRPA化するのかということを社員全体に共有することです。

RPAはあくまで方法論の一つに過ぎないわけですよね。

会社全体をより成長させていこうとしている中で、なぜRPAなのかということを腹落ちさせることがとても難しかったと感じています。

——編集部:なるほど、それでは社員にもRPAというものを浸透させるためにどのようなことを行なったのでしょうか。

現在、ソフトバンク株式会社では、2016年から働き方改革促進の一環として「Smart & Fun!」というスローガンを掲げています。

これはITツールの有効活用やメリハリのある働き方により業務の生産性を上げていき、そこで創出された時間を新たなチャレンジや個人のスキルアップに利用して、人生をゆとりあるものにしていこうという取り組みです。

このスローガンはSB C&Sでも活用しており、実際にSB C&Sで改革を進めていく際には人事が中心となって進めました。

そこに各部門の代表者が人事と部門をつなぐ窓口として参画して、組織的にRPAによる改革の必要性を浸透させていきました。

Smart & Fun!という取り組みにおける1つのアイテムとして、RPAによる生産性の向上を訴え続けたことが有効だったと考えています。

また、弊社ではここ2、3年の間に基幹システムの入れ替えを行なっています。

私たちは商社として、数多くのベンダー企業様と販社パートナー様を繋いでいるのですが、取り扱っているアイテムが40万点以上にも及びます。

そのため、基幹システムを置き換えるためにかなりの投資を行なっており、全社を巻き込んだプロジェクトとなっています。

しかし、基幹システムだけを変えたところで何の意味もありません。

業務プロセス自体を変えなければ何も変わりませんし、業務プロセスを変えてから初めて基幹システムを置き換えることができます。

基幹システムの置き換えを通じて、業務プロセスの見直しを現場と一体となって行なってきたことにより、業務プロセスに対する現場の意識変化やRPAの浸透にも繋がったのではないかと考えています。

——編集部:組織ベースで取り組むということが1つのテーマであったのですね。

その通りです。

ITというものはどうしても難しいイメージが強く、RPAとなると認知度も低いため、現場の社員だけで進めていくのはなかなか難しいです。

そこで、組織全体で彼らをサポートすることにより社内全体にRPAを浸透させていこうと考えたのです。

また、弊社では年に1度、社内表彰を行なっています。

その中には売上拡大や新規事業立ち上げなど、いくつかのカテゴリーがあるのですが、そこに業務改善というカテゴリーを追加しました。

売上拡大や新規事業立ち上げへの取り組みは華やかで目立つことなので表彰もされやすいのですが、業務改善はどうしてもそういったことの背後に隠れてしまうことが多いです。

そこで、カテゴリーを分けて業務改善への取り組み自体を表彰する機会を作ることで、社内で取り組みを共有できる上に、取り組んでいる社員のモチベーション向上にも繋がったと考えています。

こういった様々な工夫により、社内で少しずつRPA化が進んでいったと考えています。

——編集部:全社的にRPA化を進めやすい環境を作る上で組織ベースで現場をサポートすることはよくわかったのですが、実際に作成するロボットの案も組織ベースで考えられていたのでしょうか。

いえ、作成するロボット案は現場から出てくる意見を重視しています。

社長の溝口もよく言っていることですが、日々業務に当たっている現場の人こそ何が課題でどのように改善すべきなのかということをよく理解していると考えています。

そのため、現場で働いている社員から自発的に業務改善の動きが出てくるようにしようということを、スタッフ全体で共有しています。

草の根的ではありますが、このような地道な活動が社内でRPAを社内で広げていくためにはとても重要であると考えています。

なので、部長などの管理職側の社員が現場の社員に対してどのように業務改善を行いやすい環境を作っていくかという点がポイントになるのではないでしょうか。

SB C&S RPA導入の組織体制

——編集部:それでは、実際にRPAを導入していく上で工夫した点はありますか。

システムを扱うため、まずは情報システム部門に相談をして大まかな体制を構築しました。

しかし、業務1つを自動化するにしても規模が大きいものから小さいものまで様々あり、情報システム部門はRPA化の推進だけを担当しているわけではないため、費用対効果が大きいものでないと動くことはできません。

そこで、情報システム部門が取り上げることができないような案も拾うことができるように、それぞれの事業本部の中にRPA化を推進する担当部門を作りました。

その部門を担当する人を選ぶ際も、かつて情報システム部に所属していた社員や外部の専門家、システム素養のある社員など、システム周りに強いかという観点で選ぶなどの工夫をしました。

私の担当するコーポレート管理本部では、実際に配属されてからもRPAを勉強するために社内でセミナーを行ったり、社外のセミナーへ参加する場合は支援を行いました。

期間としては、RPAロボットを開発するために必要な知識をインプットするのに約3ヶ月かかり、そこから少しずつロボットを作っていく段階に入ったという形ですね。

——編集部:知識のインプットを終えた方が初めに作ったRPAロボットにはどのようなものがあるのでしょうか。

例としては、主に広報が使用しているロボットで、登録したキーワードに関する記事を見つけに行く作業を自動化したものがあります。

このロボットは、Web上の記事を自動で見に行き、特定のキーワードの入った記事を全部拾ってExcelにまとめたニュースクリッピングファイルを作成することが可能です。

また、今月はどのような内容の記事が多かったかというような分類も可能であり、データとしての活用も可能になりました。

——編集部:RPA開発者の育成段階で困った点やつまずいた点などがあれば教えてください。

技術的な面だと、どうしても理解が不十分なことが多かったですね。

初めのうちは、イメージ通りのロボットがなかなかできないことも少なくはありませんでした。

そこに関しては、工夫してアイデアを出し合って解決しました。

技術面以外だと、仕事をしている当人の意識の問題がありましたね。

ある部署では毎日オンラインで多くの注文を受けていたのですが、製品によっては一週間以内に納品しなければならない、という期限がありました。

在庫があればすぐに対応できるのですが、海外製のものだったりまだ届いていないなどすぐに対応できない場合は、期限までに手作業でデータを消していく必要があったんです。

そのデータは毎日100件以上来るため1日1時間ほどかけて削除していて、多い時だと1日800件も溜まってしまうこともありました。

そうなると消すだけで8時間もかかってしまうわけですよね。

普通だったら面倒くさいと感じるだろうし、RPAなどを使って効率化したいと思うのでしょうが、実際に仕事をしている人はそれが自分の仕事だから特に何も感じないのです。

なので、その仕事そのものを無くそう、変えようといった意識はそもそも自発的に起こることが少ないんです。

そこで、他の部署の人から指摘されて初めてそのような意識を持ち、色々なところに聞きにいくということがありました。

現在では、1日1時間かけていた作業がRPA化した結果、1日わずか1分で終わるようになっています。

——編集部:それは凄いですね!今問題が発生した時は工夫してアイデアを出し合うとおっしゃいましたが、基本的に自分たちで考えるというようにしているのでしょうか。

そうですね。

そこは決して上からの圧力をかけるというようなことはせず、対話を重視することを心がけていました。

大前提として、RPA化を進めていく上でみんなで楽しくやろうよという考えがベースとしてあったことも大きいと考えています。

上手くいかないことも多いだろうし大変なこともありますが、上手くいけば個人の負担も下がりますし、皆にとってもいいことだろうなと。

コミュニケーションを取りやすい環境を構築することにも力を入れていたことが良かったのではないかと考えています。

——編集部:RPAロボットの開発者を育成する段階で、検定試験のようなものは設けているのでしょうか。

そのようなものはないですね。

基本的に1つロボットを作ることができたら、どんどん新しいロボットを作っていくようにしています。

もちろん、たくさん作っていくと中には上手く稼働しないものもありますし、当初想定していたほどの効果を出さないものもありますが、会社としてはたくさんロボットを作って成功事例をたくさん出していこうという方針です。

それは、先ほど述べた「まずやってみる」という会社全体の姿勢が大きく影響しているからだと考えています。

——編集部:なるほど。それではその後、社内でRPAをスケール化していくために行なったことがあれば教えてください。

全体としては、取り組みに対する意識をトップから全社的に下ろしていくことを念頭に置いています。

弊社では数年に1度社員大会を行うのですが、そこで社長から社員にメッセージを出しています。

そこでは、Smart & Fun!の取り組みの総括やゴールイメージの共有を行なっており、その際に2022年度中にRPAロボットを500体作ろうというメッセージも送っています。

また、弊社では四半期ごとに全社朝礼を行なっています。

そこで社長が四半期を振り返った業績などを報告する機会があるのですが、その際にもSmart & Fun!の進捗報告などを行うようにしています。

このように、「トップから全社に意識を共有する」ということを繰り返し行うことで社員全体の意識を高めるようにしています。

それ以外にはポータルサイトを作成して様々な事例をためていき、内容によっては社内報に取り上げてもらうことで社員を刺激するといったことも行なっています。

——編集部:ロボットを作っていく中で野良ロボットというものが出てきてしまうことも少なくはないと思うのですが、作成したロボットを管理するための工夫は何かあるのでしょうか。

最近取り組んでいるのは、ツールを使ってロボットの稼働状況を管理するといったことです。

実は、作ったロボットのメンテナンスが必要になっていたりと、社内でもロボットの管理という点が一つの課題となっています。

そのような中で、弊社の取り扱い商材の中にロボットを監視、管理できるツールがあったため、それを活用できないかと取り組んでいるところです。

まずは社内でツールを使った野良ロボット対策に取り組み、それが上手くいったら今度はお客様にもご紹介していきたいと考えています。

大きな改善もまずは小さなことから

SB C&S社 市川氏

——編集部:今後、RPAを全社的に展開していくに当たって描いているロードマップなどがあれば教えてください。

弊社では500体のロボットを作成すると言ってはいますが、数はあくまでも一つの目安に過ぎません。

一番の大事なことは、ツールの有無に関わらずプロセス改善におけるPDCAが何もしなくても回っていくことだと考えています。

例えば、採用活動においては5〜6月の間に内定を出し始めて、そのわずか1、2ヶ月後に次の期のインターンがあります。

そのわずかな期間に採用活動を振り返り、プロセスの見直しを行なってRPAを利用したらいいのか、それともシステム化したら簡単になるのかということを考えて、次の採用活動には少しでも業務が改善しているというのが理想です。

そのようなことが社内で当たり前の働き方になっていけば毎年少しずつでも生産性が改善していくでしょうし、働く社員にとっても幸せなことになると考えています。

先ほどRPAのスケール化という話をしましたが、PDCAを回していく過程でスケール化することが一番望ましいですね。

それが積み重なって、結果として社内に500体のロボットを作成できたら素晴らしいと考えています。

——編集部:なるほど、RPAの導入やスケール化を最終目的にしてはいけないということですね。

その通りです。

RPAというものは業務改善のための手段に過ぎないということを認識すべきだと考えています。

先ほど数は一つの目安に過ぎないと言いましたが、それもRPAロボットをたくさん生産することを目的としないためです。

RPAを導入することで実現したいことは何なのかということを忘れないようにしなければいけません。

——編集部:それでは最後に、RPAをこれから導入することを考えている企業の方に向けてメッセージがあれば送っていただきたいです!

近頃はよく業務改善とか生産性向上という言葉が使われていますが、短期間で大幅な業務改善を成し遂げたいと考えるなら何か思い切った行動が必要です。

例えば、一つの事業をやめてしまったり、他の業務と組み合わせたりというように派手な改革を行わない限り、大幅に業務が効率化することはないと考えています。

しかし、小さなことも積み重ねたら大きな効果を生むということもまた事実です。

RPAロボットを導入した結果、数時間の業務削減が実現したり1、2%ほどの仕事が削減できることもあって、それが拡大していくことで結果として大きな効果を生み出すことも可能です。

だから、会社全体がRPAへの取り組みをしやすいような筋道を立てた上で、小さなことからでも始めていくのが良いのではないでしょうか。

その時に、何もかも自分たちだけで頑張る必要はないと考えています。

RPAやシステムが関連してくる話というのは専門性が高いことが多いため、知識がないとなかなか進めていくことは難しいですし、大変非効率です。

なので、外部の専門家のような有識者の力を借りて小さなことから進めていき、成功体験を積み重ねていくことが、結果として最も効率よく業務改善を実現することに繋がるのではないでしょうか。

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